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「もうやめるから」




 先日の日曜日のこと。

駅に向かう途中でベビーカーに乗った赤ちゃんと、三歳くらいのお兄ちゃんを連れたお母さんが前を歩いていました。男の子は小さなリュックとちょっと重そうな水筒を首から掛けていました。途中で何度か止まって、ベビーカーを押して前を歩くお母さんに何か言っています。その度にお母さんは振り返って「いいから早くして!」と言います。しばらく、トボトボ歩いて男の子はまた先を急ぐお母さんに何か言ってます。「だから早くしなさいって言ってるでしょっ!」お母さんの振り向いた顔はさっきより険しくなっています。

男の子が大きな声で言いました。「でんしゃのカード わすれたんだよお」

「はあ?どーでもいいでしょっ!もーおいてくよっ」お母さんはさっきより早足になり、男の子とどんどん離れていきました。「いやだあーカードとりにいくー」とその場で泣き出しました。

さて、どうするのかなと思った瞬間です。

お母さんはピタッと立ち止まりました。緊張感のあるストップモーションです。

そしてゆっくり振り返り、大きく、少し低い声で言いました。


「も う や め る か ら」


お母さんは、そのまま来た道を引き返したのです。

私は大声で泣く男の子の声を背に、駅に向かいました。


 電車に乗ってから私はお母さんと男の子のその後が気になってしかたありませんでした。

かわいいリュックと重そうな水筒を持って、きっとワクワクして玄関を出たんだと思います。もしかしたら何日も前から楽しみにしていたかもしれないのに・・・

 いや、お母さんだって久しぶりのお出かけにウキウキしていたかもしれない。

子供は急にめんどくさいことを言い出す生き物。

でも、「もうやめるから」は巨大な隕石が落ちてきたみたいな展開。


 どうか、そのあと電車に乗りましたように。





  

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